
自ら生み出したアイデアを、自分の手で実行し、それを実現する。何の束縛もない。自分の思い通りに研究に没頭することができる。これほど楽しいことはない。この恵まれた環境を充分に活用し、焦らずにじっくりと取り組んでほしい。また、周りの同胞と熱い議論を交わして純粋に化学研究を謳歌して頂きたい。
若い時に、このような時間を持つことは大変贅沢であり、かつ、この時期しかできない。この地で力を蓄え、次のステップに躍り出る覇気のある若者を大歓迎します。
このような場は日本ではほとんど皆無に近いと言ってよいでしょう。将来アカデミックに行く、海外に留学する、企業に就職するにしても、いずれも化学のエキスパートとして生きていくしかありません。
昨今の日本の産業界の様子を見れば分かるとおり、絶対的に安定な道などもはや存在しないと思います。30年ばかり学会の様子を眺めていますが、研究には流行があって、多くは5年-6年くらいしか続きません。その流行の中に身を置くことは良いのですが、10年、15年経つと自分はいったい何を研究してきたのだろうと忸怩たる思いになります。そうならないためにも流行に身を置く必要はなく、じっくりと自分の頭で考え、自ら手を動かして研究を探求していくことは学位を取った後にこそ重要です。
そのような若い人材が集まり、育つことを願っており、また若い人から学べることを楽しみにしています。
私は、天然物合成を主なる研究分野として慶應義塾大学にて40年間の教員生活を過ごし、2013年に定年退職しました。2016年4月からは乙卯研究所の研究顧問として、合成を主体とした有機化学の現場に身を置き、新しい研究成果に出会うたびに、若い博士研究員と共に一喜一憂しています。
ここ乙卯研究所は研究テーマの設定を含めて、なによりも若い研究者の将来設計に対する自主性を重んじる、極めて恵まれた研究環境です。
これまで学生として大学院等での教育を通して多くの学び、博士学位を取得した次世代の方々には、限りない将来の可能性が開けています。
自らの将来設計の選択肢として、また自らの研究者としての技量、才能をさらに高めるために、ここ乙卯研究所で一時期過ごすことは後の人生に大いに役立つはずです。
さらに、同世代の研究者と日々友情を深め、研究を通してお互い切磋琢磨することはとても大切なことだと思います。
乙卯研究所は、意欲ある皆さんの積極的な参加を待っています。
中部大学 分子性触媒研究センター長 教授 山本 尚
岐阜薬科大学(助教)、十全化学、三菱ケミカル株式会社、大阪大学(特任助教)、高崎健康福祉大(助教)、東北大学(助教)、岐阜大学(助教)、東北大学(講師)、広島大学(助教)、明治薬科大学(助教)、京都大学(特定助教)、Pennsylvania大学(研究員)、東京理科大学(助教)など