乙研雑記 (ITSUU BULLETIN)
トロポロニルウレア誘導体の葉緑素(クロロフィル) 保持作用
植物の生長、発達は植物ホルモン類 (オーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、エチレン、アブシジン酸およびブラシノリド) によって制御されている。中でもサイトカイニンは、細胞の分裂、分化に関与し、植物の老化 (黄化、落葉や落果) を抑制する (
【総説】サイトカイニンの研究 K. Shudo, 薬学雑誌, 114(8), 577-588 (1994). <PDF, 許可番号:13013102>)。
我々は、トロポロン誘導体の合成研究過程において、薬理活性を期待し合成したトロポロニルウレア誘導体に植物のクロロフィルを保持したり破壊する効果を見出した。
かぶの葉切片を水で培養するとクロロフィル含有量は培養時間に伴ってほぼ直線的に減少する。
5 日目のクロロフィル含有量は 30-40% まで低下し、葉切片は黄変した。
サイトカイニン活性を有する DPU (ジフェニルウレア) 10ppm 存在下ではブランクに比べてクロロフィル含有量の減少が抑えられ、5 日目のクロロフィル保持率は 665 nm における UV 吸収測定において処理前に比べて 75% 以上を保ち、目視からも明確な老化遅延が観測できた。
今回、合成したトロポロニルウレア化合物群 (1-6) の存在下でかぶの葉切片を 5 日間培養すると、化合物 1-3 においては、DPU に近い明確なクロロフィルの保持作用が確認できた。一方、化合物 4-6 においてはクロロフィル含有の低下が認められ、顕著な老化促進作用が確認された。
以上の結果から、これらトロポロニルウレア化合物 1-3 には植物生長調節剤、化合物 4-6 には除草剤などとしての応用展開が期待できる (特開 2007-145723)。

直径 1 cm のかぶ切片 8 枚を表面にして水に浮かべ (室内蛍光灯点灯、室温 23°C) で 5 日間培養した。
培養後の葉切片中の残存クロロフィルをエタノールで抽出し、665 nm における吸光度より定量し処理開始時の含量に対する百分率で表した。化合物 1-3 においては、ブランク (水) と比べ高いクロロフィル保持率を示した。一方、化合物 4-6 においては顕著なクロロフィル低下が確認された。
2009/12/04 (A. Ito)
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